居酒屋探偵DAITENの「がっかり録」第4回/下北沢の心配
居酒屋探偵DAITENの「がっかり録」第4回 【地域別】 【時間順】 【がっかり集】
下北沢の心配
先日、あるお芝居を見に行った。お芝居がはねて、出演者の1人である先輩俳優が外に出てきてくれた。どこか近くで飲みますかと言うので、場所を決め、店名を伝えて先に行くことにした。
なかなか店が見つからない。場所を知ろうと電話をしたが、満席であるという。こちらは3人である。先輩俳優がいらっしゃると4人になる。小さい店でも大丈夫だなと判断して一軒の店を選択した。携帯電話で場所の変更を伝え、3人でその店に入った。
ここは、コの字カウンターが素敵な老舗である。中に入ると、店内はガラガラであった。二十人近く座れるカウンターには、2人の客が座っているだけだった。奥の座敷にも誰もいない。午後9時とはいえ、今日は金曜日である。空いているのが不思議だった。
いやに元気で威勢のいい若いお嬢さんが対応をする。その他に若い男子に、中年の男性がいる。何か違うなとすぐに気づいた。
空いているので、カウンターの曲がり角の場所に4人座ると、ちょうど話し易いのでそこに座ろうとした。すると、若いお嬢さんに「こちらでお願いします」と、カウンター中央に4人並ぶように言われる。しかし、こちらが黙っていると、若いお嬢さんは背後を振り返った。すると、奥の中年男性が「いいですよ、後で混んできたら動いてもらうけど・・・」と、言った。
今日は、噂に聞いている「やさしい女将さん」の姿がない。この店の「良い雰囲気」というのはその女将さんが作っているものらしい。しかし、今は、この中年男性が店を仕切っているようである。
まずは、ビールを頼み、おでんを頼むことにした。壁にある値段表を見ると、やや高い価格設定である。おでんというものは安い店と、高い店でかなり差のある商品である。
行きつけの大衆酒場の安いおでんの価格に慣れている私には、この店のおでんの価格はずいぶん高く感じられた。
店の作りは古く、聞けば50年という時がたっているらしい。この古く落ち着いた店に対して、その場にいる「人間」が、なんとなくそぐわないのである。
元気なお嬢さんと、今時風のお兄ちゃん、そしてあの店主がビートルズの曲名のことで、盛り上がっている。
やがて、先輩俳優さんが入口から顔をのぞかせた。これで4人揃うなと思っていると、他にも人がいるとおっしゃる。なんと、若い女性を4人も連れて来たのである。
これは困った。
「あの店主は断るな、断られたら外に出よう、ちょうどいい」と思った。
ところが、店が空いている為か、店主は「いいですよ、でも団体さんは1時間にして」と入ってきた女性たちに向かって言った。カウンターに、なんと8人も座ってしまったのである。
この店に若い女性4人はなんとなくそぐわない。でも、どの女性も育ちが良いのか、品よく俳優さんのお話を聞いている。
ただし、一度だけ、俳優さんの話に呼応して、大きな声で彼女たちが笑ってしまった。すると、すかさず店主は「他のお客さんがいるから静かにして」と彼女たちに言った。神楽坂の「伊勢藤」の真似だろうか。自分たちが私語を続けているのに、客が笑うと注意する。何かちぐはぐである。
しばらくして、かなり酒の入った男性3人組が入ってきた。店のことをよく解っていないのか。いきなり「ウーロンハイ」などと言っている。焼酎はシソ焼酎しか無いと言われる。たしかに、シソ焼酎をウーロンハイにすると、あまりうまくないかもしれない。心の中で独り笑ってしまう。さらに数人が入ってきてカウンター席は8割ほど埋まった状態になった。
どうやら、午後10時が一つの区切りらしい。午後10時過ぎに中を覗いた客たちに、「もう今日は駄目、無理」と店主が乱暴に言う。あきらめて彼らは帰って行った。私たち3人が店に入って、ちょうど1時間たった。店側の提示した「団体さんは1時間」という設定の時間である。しかし、先輩俳優に注意する訳にもいかない。3人共に翌日が早かったので、ここで、私たち3人だけ先に外に出ることにした。一度締めてもらうと、お勘定は13,000円を越えていた。先輩俳優に私たちの飲んだ分を託して、外に出た。店に迷惑をかけたくないと思い、店側の提示した条件に合わせたのである。
外に出て、心配になった。下北沢のこの店は名店の誉れ高き居酒屋であったはずである。しかし、その名店らしさを醸し出していた女将さんが1人いないだけで、その雰囲気は噂に聞いていたものとは、まったく違ってしまっていた。行く末が心配である。このまま「一期一会の店」にならぬことを祈るばかりである。
(了)
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下北沢の心配
先日、あるお芝居を見に行った。お芝居がはねて、出演者の1人である先輩俳優が外に出てきてくれた。どこか近くで飲みますかと言うので、場所を決め、店名を伝えて先に行くことにした。
なかなか店が見つからない。場所を知ろうと電話をしたが、満席であるという。こちらは3人である。先輩俳優がいらっしゃると4人になる。小さい店でも大丈夫だなと判断して一軒の店を選択した。携帯電話で場所の変更を伝え、3人でその店に入った。
ここは、コの字カウンターが素敵な老舗である。中に入ると、店内はガラガラであった。二十人近く座れるカウンターには、2人の客が座っているだけだった。奥の座敷にも誰もいない。午後9時とはいえ、今日は金曜日である。空いているのが不思議だった。
いやに元気で威勢のいい若いお嬢さんが対応をする。その他に若い男子に、中年の男性がいる。何か違うなとすぐに気づいた。
空いているので、カウンターの曲がり角の場所に4人座ると、ちょうど話し易いのでそこに座ろうとした。すると、若いお嬢さんに「こちらでお願いします」と、カウンター中央に4人並ぶように言われる。しかし、こちらが黙っていると、若いお嬢さんは背後を振り返った。すると、奥の中年男性が「いいですよ、後で混んできたら動いてもらうけど・・・」と、言った。
今日は、噂に聞いている「やさしい女将さん」の姿がない。この店の「良い雰囲気」というのはその女将さんが作っているものらしい。しかし、今は、この中年男性が店を仕切っているようである。
まずは、ビールを頼み、おでんを頼むことにした。壁にある値段表を見ると、やや高い価格設定である。おでんというものは安い店と、高い店でかなり差のある商品である。
行きつけの大衆酒場の安いおでんの価格に慣れている私には、この店のおでんの価格はずいぶん高く感じられた。
店の作りは古く、聞けば50年という時がたっているらしい。この古く落ち着いた店に対して、その場にいる「人間」が、なんとなくそぐわないのである。
元気なお嬢さんと、今時風のお兄ちゃん、そしてあの店主がビートルズの曲名のことで、盛り上がっている。
やがて、先輩俳優さんが入口から顔をのぞかせた。これで4人揃うなと思っていると、他にも人がいるとおっしゃる。なんと、若い女性を4人も連れて来たのである。
これは困った。
「あの店主は断るな、断られたら外に出よう、ちょうどいい」と思った。
ところが、店が空いている為か、店主は「いいですよ、でも団体さんは1時間にして」と入ってきた女性たちに向かって言った。カウンターに、なんと8人も座ってしまったのである。
この店に若い女性4人はなんとなくそぐわない。でも、どの女性も育ちが良いのか、品よく俳優さんのお話を聞いている。
ただし、一度だけ、俳優さんの話に呼応して、大きな声で彼女たちが笑ってしまった。すると、すかさず店主は「他のお客さんがいるから静かにして」と彼女たちに言った。神楽坂の「伊勢藤」の真似だろうか。自分たちが私語を続けているのに、客が笑うと注意する。何かちぐはぐである。
しばらくして、かなり酒の入った男性3人組が入ってきた。店のことをよく解っていないのか。いきなり「ウーロンハイ」などと言っている。焼酎はシソ焼酎しか無いと言われる。たしかに、シソ焼酎をウーロンハイにすると、あまりうまくないかもしれない。心の中で独り笑ってしまう。さらに数人が入ってきてカウンター席は8割ほど埋まった状態になった。
どうやら、午後10時が一つの区切りらしい。午後10時過ぎに中を覗いた客たちに、「もう今日は駄目、無理」と店主が乱暴に言う。あきらめて彼らは帰って行った。私たち3人が店に入って、ちょうど1時間たった。店側の提示した「団体さんは1時間」という設定の時間である。しかし、先輩俳優に注意する訳にもいかない。3人共に翌日が早かったので、ここで、私たち3人だけ先に外に出ることにした。一度締めてもらうと、お勘定は13,000円を越えていた。先輩俳優に私たちの飲んだ分を託して、外に出た。店に迷惑をかけたくないと思い、店側の提示した条件に合わせたのである。
外に出て、心配になった。下北沢のこの店は名店の誉れ高き居酒屋であったはずである。しかし、その名店らしさを醸し出していた女将さんが1人いないだけで、その雰囲気は噂に聞いていたものとは、まったく違ってしまっていた。行く末が心配である。このまま「一期一会の店」にならぬことを祈るばかりである。
(了)
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